容疑者Xの献身

監督:西谷 弘

脚本:福田 靖

2008年:日本



★★★★☆

 

東野圭吾原作のベストセラーミステリーを映画化した作品。ベストセラー小説の映画化は、元ネタがしっかりしているので成功が約束された企画のように思われるかもしれませんが、意外と難しい実情があります。たとえば、高村薫の『レディ・ジョーカー』は、原作の評価はとても高いにもかかわらず、映画のほうは酷評されたりしています。私も映画版『レディ・ジョーカー』を観ましたが、ストーリーがまったくといっていいほど理解できず、“金返せ”の世界だった記憶があります。


そうしたことを考えると、本作はかなりよい出来だったのではないでしょうか。私のように原作を読んでいなくても十分楽しむことができる内容になっており、脚本家の手腕のほどがうかがわれます。また、俳優陣の多くも頑張っており、とりわけ堤真一の演技はオスカーものです。ちょっと引きこもり傾向のある孤独な高校数学教師、石神哲哉役で、背中を丸めてとぼとぼと街を歩くさまは、この人ほんとうにこういう人間なのではと思ってしまうほど。ひっきりなしに眼をしばたかせたり、頬を引きつらせたり、おそらく、かなり事前に研究して撮影に臨んだものと思われます。


石神がひそかに想いを寄せる隣人でありお弁当屋の女主人である花岡靖子役の松雪泰子もよかったです。美人なのにどことなく薄幸な小市民の味がとてもよく出ており、こちらも、こんなにうまい女優だったのかと認識を新たにしました。柴咲コウの女刑事役もバッチリで、ときに粗暴とも感じられる振る舞いなども好演技だと思いました。


主役クラスがそのように軒並み見事な演技を見せたなか、一人ダメポだったのが福山雅治。役柄自体がキザでプライドの高い大学教授ということはあっても、どうにもわざとらしい演技が見え見えで、この人だけ「演技をしている」という印象がついて回りました。イケメンでいいのですが、俳優としてはもうちょっと勉強してもらわないといけません。


肝心のミステリーの謎解きのほうも、あとから考えたら随所にヒントがちゃんとちりばめられており、「なるほど!」と感心しました(ということは、最後まで見破れなかった。^^;;;;)。ムリを感じる筋書きでもなく、このあたりは原作者の東野圭吾の力量に負っているのでしょう。東野圭吾の本は、ほかのものを何冊か読んだことがありますが、常に高品質で安定しており、本作の出来も納得できます。


さらに感心するのは、ミステリーとしてクオリティが高いだけではなく、登場人物の人間性もよく描かれている点です。現在の社会事情を巧みに織り込みながら、とりわけ石神がたどった道行きは観る者の心に迫るものがあったかと。上映中、館内では(主に女性の)すすり泣きの声が複数漏れ聞こえていました。


ということで、私はこの映画を高く評価します。ベストセラーの他の映画のように原作を読んでないとさっぱり、ということもなく、映画自体として完成度の高い作品だと思います。ところが! 面白いし、クオリティも高いと思うのに、観客が入ってないんですよねー。私が観た回は、なんと私のほかには3人だけでした(それですすり泣きが複数聞こえていましたから、すすり泣き率ほぼ100%!)。いったい、どうしてなのか? 俳優陣も豪華だし、福山雅治も出ているのに。ま、でも興収自体はそこそこ伸びているみたいなので、心配要らないのかもしれませんが。

(08.12.11)